2025年 7月作品 暦日下町

孝男  一幹  麻紗 篤樹  恵美子 佐恵子  龍之介 一穂 


◇道山 孝男

やる時は脇目も振らず蝉時雨

青空を広げて今日の山開き

可も不可もなき一日や夕端居

七月や風に置きたる旅帽子

汗ばかり掻きし人生握り飯


◇萩庭 一幹

蝉時雨乙女の祈り長かりき

夏草や石垣緩ぶ見附跡

梅雨底に埴輪二体や都市公園

煩悩の数の磴下り夏祓

泡沫は川の呟き夏至昏るる


◇渋谷 麻紗

夕凪や故郷の浜に貝拾ふ

蝉しぐれ高原の駅降り立てば

荒梅雨に降り込められし峡の村

夏空へみなとみらいのノッポビル

夾竹桃真鯉のおよぐ神田川


◇柳篤樹

ひとつづつ忘れ行く過去まだら梅雨

草いきれ低山趣味と呼ばば呼べ

夏痩せもせでのうのうと馬齢かな

月見草薄紅色に閉ぢて朝

夕凪や六甲颪轟きぬ



◇遠藤 恵美子

雲の峰うだつの町の虫籠窓

睡蓮の青を咲かせし和菓子店

菓子の銘は夏越し茶席にひとりゐて

遠き日の母の記憶や虹二重

深煎りの珈琲で待つ蝉しぐれ


◇飯塚 佐恵子

月見草殖やして友の鄙住まひ

掌の温み恋しき蛍かな

菖蒲園ひたと花殻摘む漢

一本の捩花嬉し我が芝生

飛び石は木洩れ日模様蟬時雨


◇松尾 龍之介

しょつ引いて鳴らす汽笛や麦の秋

梅雨深し史跡出島の屋根瓦

懸崖に枝をひろげて菓子合歓の花

破れ傘西より変はる空模様

箸入るる一年振りの冷奴


◇世古 一穂

尾鰭つく人の噂や百日紅

それぞれの水輪に力む水すまし

神主の声裏返る磯開き

捨て石に腰を預けて蟬時雨

城址に碑ひとつあり蝉時雨